―生駒聖天こと寶山寺鎮守歓喜天
生駒寶山寺歓喜天は、大根(羅葡根らふこん)と酒(般若糖)・沈香が好物であり、それらとオダン:歓喜団がお供えである。歓喜天と大根の関係は、印度ヒンズー神ガネーシャ時代に大根畑が広がっていたと云い、左手に大根を持つ姿で現している。毒消しの食物とされた大根は心の毒も取り除くと云う。酒は世界の上古より神佛に捧げるものだが、荒ぶる神は酒も一際好物とする。
毎日の御膳には、六根清浄食と呼ばれる大根以外に人参・牛蒡・山芋・蓮根・慈姑(くわい)の六菜根が供される。人間の六根即ち眼・耳・鼻・舌・身・意が清められ、健康が保たれ心気壮快息災長寿が得られる佛食と称され、歓喜天にはこれら六菜根に季節の旬のものが捧げられているのである。また、特殊神饌としてオダン(御団:歓喜団)と呼ばれる唐菓子がある。小麦粉を混ぜた米粉で巾着袋形に造った小豆餡入りの胡麻油揚げの菓子で、京祇園町南の京御菓子司亀屋清永(清浄歓喜団調進所・元和3〔1617〕年以前創業・16代前川清二当主)のニッキ味(桂皮)で調整した清浄歓喜団が有名だが、七つの薬香を入れた元祖とも見られるものである。
ちなみに寺紋の笹竜胆の竜胆車紋とは別に聖天御紋も巾着形の宝袋と交差する大根であり、それらを意匠したのが線香場の欅一木造りの骨董賽銭箱(中西弘屬彫刻生駒料理旅館組合)。
唐菓子オダン:歓喜団の事を記す。二三カ月に一度早鐘を合図に神饌御団作りが行われる。オダンの作る日をケ:経営(けいえい)と呼ばれ、御供所にて寺僧侶・寺務員総出で奉仕する。経営と呼ぶのは、昔は経を唱え乍ら作った為と云う。米粉を蒸して臼で搗き切り分けて、僧を中心に麺棒で伸ばして小豆餡を仕込んで丸め折り曲げていく。必ず年長僧が最終形を整え小重板に並べ数を合わせる。そして竈に沸かした胡麻油の入った大鍋にて狐色になるまで掻き回しながら揚げて仕上げられるのでる。その数は七・八百個、月に三百個・毎日十個が歓喜天に供えられる計算になる。本尊不動明王初め他のお堂には供えられる事は無く、歓喜天の特殊神饌である。
沈香 (焼香:線香)も歓喜天好物といい、線香場は香烟が絶えない。何百年続いた慣習としての参拝手順が知られる。
1.守護獣の狛犬(阿の獅子と吽の戌)の間の身正躰鑑飾りの付いた銅製鳥居(17世駒岡乗圓徳榮組)を潜り、手水舎と対の彫刻のある焼香場に進む(明治元年の「神佛分離令」から発し吹き荒れた廃佛稀釈運動の影響下で、寶山寺も歓喜天を鎮守として神格化したと考えられ、鳥居が建てられ身正躰や金幣を取り付け檜皮葺き八ツ棟造神社建築拝殿にされている)。2.川田徳榮堂製一本五円の線香をselfで鷲摑に十本取り(多ければ返し少なければ足す)五拾円と蝋燭一本参拾円を納める(〆て八拾円、細かいお金が無かったらその分多めに取れば良いわけで、是にて吉凶を占うらしい)。3.雲龍紋のある金銅製火舎火種にて尖った先を突き刺し十本に火を付ける(内に伝統的に毎日炭火が大量に熾されている)。4.金銅製獣脚の大形線香盤に線香をぶっ立て身体健全に烟を浴びたり、病んだ処に頂く。5.歓喜団の巾着袋形欅一木造り賽銭箱にcoinを投げる(カランコロンと共鳴する)。また、財布を取り出し正面右から左廻り(時計廻り)に撫でると金が貯まるとも云い、口はピカピカである。6.蝋燭立にて蝋カップ浄火の火種から火を取り灯明を供える。7.階段を左から上りお詣りするのである。
拝礼の仕方もまた独特で「南無大聖歓喜双身天王」と唱える(生駒山宝山寺歓喜天拝礼作法帳なるものがあるらしい)。
1.礼拝三回。2.御名号呼び。3.二拍手。4.住所・氏名の名乗り。5.願いの祈念。6.般若心経。7.御真言「おんきりぎゃくうんそわか」を七回唱える。8礼拝。すると云うもの。礼拝は24時間開放された外拝殿に入場して行われたが、コロナ禍で令和2年4月から入場が禁止されている。内拝殿では希望者の大般若祈祷(¥20,000以上)は行われているが、16日の縁日に参拝が許可されていた天堂外陣への参拝も休止中である。
参拝後、丁字頭の道標「おく乃ゐん道/文化五(1808)年戊辰春三月建之/施主大坂鎗屋町鎗屋佐兵衛佃利兵衛」に導かれて護摩堂惣持院後身の本堂・堪海律師開山堂・大黒堂の奥の院に参拝する事になっている。奥の院を遠慮する者は蝋燭台の横の線香立てに線香をあげ御山に手を合わせて参拝すると云う。
拝殿受付では、日々の御膳料・灯明料(¥300~)・松井和蝋燭工房製の和蝋燭祈祷(¥300・400・600・900・1500)が受け付けられている。病気平癒・眼病平癒・無病息災・身体健全・商売繁昌・商業繁栄・交通安全・家内安全・除災開運・疫病退散・罪障消滅・苦悩消滅・厄除祈願・安産祈願・心願成就・良縁成就・就職成就・進学成就・受験合格・学力向上・報恩感謝・御禮の願文が多い様だ。
【freelance鵤書林260 2020/11/26いっこう記】
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