過ぎし刻黄昏に想う太子の夢探訪解説6

和辻哲郎『古寺巡礼』と亀井勝一郎『大和古寺風物誌』の斑鳩―

古寺に魅せられた思索者

 日本哲学者・倫理学者で思想家でもあった和辻哲郎(明治22~昭和35年・兵庫県神崎郡砥堀村(現姫路市)生まれ。京都帝大東京帝大教授・日本学士院会員文化勲章受章・日本的思想と西洋哲学の融合哲学を目指す)は、大正8年『古寺巡礼』で大和の風景を〝可憐な少女のような山水〟と讃え、導かれる様に古寺を巡り旅の終わりに斑鳩を訪れる。法隆寺駅から三代川(みよがわ)を北上し野道の田園風景と仰ぐ法隆寺塔に胸躍らせ、高揚感と感性を表現している。飛鳥奈良期の佛教美術を紹介した古寺巡りの先駆をなす金字塔のバイブル本である。 

 一方亀井勝一郎(明治40~昭和41年・北海道函館区(現函館市)生まれ。左翼活動家から芸術哲学的研究に身を転じた文芸評論家・日本藝術院会員)は、『古寺巡礼』・保田與重郎(明治43~昭和56年)の影響を受け、大和風物佛像の美に感嘆し昭和12年から6年間に亘る大和古寺巡礼記をまとめた。戦時下の昭18年天理時報社刊のザラ紙同然紙質乍ら、歴史を通して大和への思慕を痛々しい迄に熱く綴った大和讃仰の書『大和古寺風物誌』である。写真家入江泰吉(明治38~平成4年)にして、この一冊の書に出会ったことが、大和の風物に目を開かせ人生を決したと記す。

 両人共、リアルタイムで説得力ある感受性豊かに、時を越えて過去と対話できる興奮を著し、いかるがの里に託した太子の理想郷を語り、自然そのものの中にある素晴らしい日本人の美意識を認識させた。斑鳩を語る上では必読の今なお版を重ね読み継がれる名著二冊。文献:『古寺巡礼』1919・改訂1947・岩波文庫1980・改訂2009・ワイド版1991・改訂2010、『大和古寺風物誌』1943・養徳社再販1945・新潮文庫1953・改版1997・創元社『入江泰吉写真版大和古寺風物誌』1953・新潮社復刻1990

【freelance鵤書林156 いっこうZ6記】

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