奈良大和路の観光2(明日香村の観光について想う)


 明日香村は昭和31年7月、地域の小単位(明治22.4.町村制地勢)で言うならば阪合村高市村飛鳥村を経済的理由によって合併成立しているのであって、古代の仮名字体「明日香」と言うものの「遠飛鳥と呼ばれた地域とは異にする事、中近世・近代と法楽寺多武峰南街道・龍蓋寺門前町「岡」を除けば純農村である事、昭和55年成立の歴史的風土保全を目的とした「明日香村における歴史的風土保存及び生活環境の整備等に関する特別措置法」をまず抑えておかなければなるまい。今や観光事業は、一町村の行政エリアでは成立しない事、県中心南大和のcoreとして隣接する高取町・橿原市南半・櫻井市西半との一体化した観光エリアを奈良大和路の中でモデル化を図らなければならないと考える。その中での玄関口は近鉄南大阪線・吉野線の橿原神宮前駅・飛鳥駅(旧橘寺駅)が拠点となる。関西国際空港とは、今や高速道路で結ばれ1時間の距離でもある。

   世界遺産を目指す「飛鳥藤原の宮都とその関連資産群」を見据えた観光客誘致による活性化策、訪日外国人に対応五カ語情報発信・民家ステイ交流・道の駅構想の飛鳥グリーンツーリズムなど一つの仕掛けともなろう✤。〔✤私の以前からのこうした地域ブランドの考えは、近刊、森川裕一ほか編(2013)『飛鳥 時空間ブランドとしての飛鳥劇場』地域ブランドブックス2 東京:扶養書房出版 で述べられている事と重なるが、前村長提案の何の仕かけも無い「明日香まるごと博物館」構想とは意味を違える。〕

   平成大合併が進まぬ特殊地域奈良県行政は尚更広域連携を図るべきであり、観光産業は国家戦略の国策となり、地域興し(地域創生)と無関係ではない。その観光も物見遊山の団体観光から「見る/食べる/癒す/体験する」の個人観光へとシフトし、女性・中高年・カップル(夫婦)旅行が主力になりつつある。観光の魅力条件は、〝自然・気候・文化・食事・多様性〟であり、これらは新たな複数ビジネス事を内包するが、主には「宿泊と食事+体験」である。全国に存在する観光協会の御用利きの形式論では無く、DMO(DestinationManagementOrganization)を有する観光戦略を立てることが重要であると考える。

   受け手は、「日本人の原郷古都空間」の文化体験を通じての「ほんまもん」の商品と日本人「おもてなし」が必要である。5人に1人が地球を旅する時代、非日常の旅行商品・名産品も食文化・住文化を感じる体験旅行を県内・県外の来訪者(客)が求めている事を認識しなければならない。また観光の基本は、テーマ性・ストーリー性のある観光と捉えるべきであろう。歴史遺産を生かした観光政策始め、各地であの手この手の政策が取られているが、地域を知らない・教えない・学ばない・学ぶ施設も無い奈良県にあって地勢・物語を無視(無知)の画一的智恵の無いものも少なくない。そうした特異性を周知した上で、智恵を発揮しなければならない。

   奈良県は平成の大合併を経て「西高東低南部どん底」という三極化を呈しているが、国家建国以来の危機感を孕んでいる。歴史性を持たせた地域拠点づくり・「まちづくり」に、「文化・藝術」と「まち」を想う「歴史的智慧」を活かしたソーシャルビジネス的視点が、地域産業再生に今求められている様に思うが、暮らしの安心・利便の主要施設が車で行ける距離にあるとは言え、周辺市町村に日常経済が依存している明日香村の生き残りは死活問題ですらあり、農業兼業の第3基幹産業としての観光産業以外生き残れる道はない

    昨2016年外国人観光客2,100万人(県内165万人)超えの現状(2030年迄には18億人の国際観光客が地球を旅し、2.5倍の経済効果を生む1/4の欧米人が日本を目指しているという統計もある)を踏まえ、私が提唱するのは「日本のほんまもんと振り返れば未来」である。地域創生は産業再生の経済効果を生まなければ無理であろうし、その一躍を担う観光も物語性をもった「着地型観光」でなければ経済効果は大変薄いものでしかないし、何も生まない。繰り返しになるが、地域の隅々まで知る事、学ぶことである。そしてほんまもん商品とおもてなしの心を提供する。

   「学」の無知教員学生・外部のコンサルタント任せでは、地域産業の再生おろか智恵すら浮かばない。案ずれば、世はボランティアの似非ものプライドばかりが目立つガイドブックオオム返しでは無く、基礎学問に立脚した史跡・名勝・天然記念物・景観・伝建・民俗文化財等々悠久の歴史を地域住民が有償で語り文化資産を最大限利用した仕掛けを作ることである。観光資産となる仕掛けは、生涯学習と連携した拠点となるイベント(催し)を打ち続ける事も必要である。

   私が地域力創造アドバイザーとして提言実践するならば地域資源の保全活動とそれらを活用したツーリズムを推進し、クールな田舎をプロデュースする。具体例として1.大和棟建空き家を活用した里山オフィスプロジェクト及びゲストハウスの誘致推進。2.インバウンドビジネス・ガイドツアー飛鳥里山サイクリング事業。3.遠飛鳥(とおつあすか)観光コース100プランとガイドツアー事業。4.遠飛鳥名産品の開発販売。をまず挙げる。名産品の一例は飛鳥資料館におられた猪熊兼勝氏の発案で定着を見た名産「飛鳥の蘇」を発展させ、昭和30年代まで農家で普通に飼われていた山羊に注目する。当時ミルクの活用から発した、ほんまもん「飛鳥鍋」に加えテコリーノチーズ作りを推奨するなど、幾らでも発想が沸く。

   拠点とは、地域住民が安心して・楽しく・笑顔あふれ住みよく・便利でほっこりするまちで暮らせ、集う処であり、魅力ある原郷古都空間の滅びゆく美学の農村風景・里山景観を法律で盾に積極的に保全推進する事である。遺跡のテーマパーク化はお粗末極まりないし、農地を買い上げて景観を害する歴史公園はもう要らない。〝よそ者・若者・ばか者〟では無く、観光まちづくりを運営俯瞰できる 〝よそもの・かくしんもの・ほんまもの〟のまちづくり組織の智恵が必要である。運営・経営は、ボランティア化によらない方策が必要で、提供する知識は「満足の代価」にならなければならないし、それが観光ビジネス(地域おこし)と考えるのである。

   今回は、奈良大和路の民俗文化財調査等「なら學」の構築と「観光・まちづくり」について、歴史学歴46年の知識を地域社会に活かすべく自己啓発を行ってきた私が、理念を述べたにすぎない。総務省が推奨する過疎町村の地域おこし協力隊について、体験や問題点等Networkや書物で指摘されている。都市部から若者を呼び集め、経験や智恵で地域「」協力するのでは無く、地域「」協力して過疎地に住んでもらう制度で、Management欠如の与えられたMissionで仕事をするだけと言う。国の補助金ありきの「稼ぐ」では無く、「使う」であり、3年使い捨てのブラック企業並みの食いつぶしが多く語られている。2017年度から指定を受けた明日香村の実態はわからないが、システム運用側の沢山の問題点がある様で、決められた仕事が前提にあったとしても、それにプラスして企画・生業を見つけて行ける事を期待している。(以上)

(初出典:私が考える明日香村での地域おこし活動 2017/8/30より加筆)

【freelance鵤書林127 いっこう記】

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