橿原市は昭和31年2月、地域の小単位(明治22.4.町村制地勢)で言うならば寺内町の今井町・畝傍町(白橿村)、宿場町の八木町が核を成し・鴨公村・耳成村・香久山村・真管村・金橋村・新澤村そして多村の新口、平野村の飯高、天満村の箸喰を経済的理由によって合併成立しているのであって、一つの市域といえども地勢を異にする事をまず抑えておかなければなるまい。
今や市の観光事業は、近代天皇制のもと造作された「聖都橿原」などという概念では成立しない事、県中心地南大和のcoreとして隣接する櫻井市、明日香村・高取町との一体化した観光エリアを奈良大和路の中でモデル化を図らなければならないと考えられる。
勿論その中での玄関口は近鉄南大阪線・吉野線の橿原神宮前駅、近鉄大阪線の八木駅が拠点となる。其の両拠点を繋ぐのが近鉄畝傍線であり、西大和・奈良とはJRまほろば線があり、鉄道網には申し分ない。関西国際空港とは、今や高速道路で結ばれ1時間の距離でもある。世界遺産を目指す「飛鳥藤原の宮都とその関連資産群」を見据えた観光客誘致による活性化策、森下豊市長が推進する市分庁舎複合ホテルPFI方式構想やバックパッカーの聖地と結んでのインバウンドに対応の国際交流職員の登用・五カ国語情報発信など一つの仕掛けともなろう。
何事も行政は今や広域連携を図るべきであり、観光産業は国家戦略の国策となり、地域創生と無関係ではない。その観光も物見遊山の団体観光から「見る/食べる/癒す/体験する」の個人観光へと変化し、女性・中高年・カップル(夫婦)旅行が主力になりつつある。
受け手は、「日本人の原郷古都空間」の文化体験を通じての「ほんまもん」の商品と日本人「おもてなし」が必要である。旅行商品・名産品も食文化・住文化を感じる体験旅行を県内・県外の来訪者(客)が求めている事を認識しなければならない。
また観光の基本は、テーマ性・ストーリー性のある「まち歩き観光」と捉えるべきであろう。歴史遺産を生かした観光政策始め、各地であの手この手の政策が取られているが、地勢・物語を無視(無知)の画一的智恵の無いものも少なくない。
地域を知らない・教えない・学ばない・学ぶ施設も無い全国47位の奈良県(高度経済成長期に移り住んだ新県民8.5割、1/20面積の国中に9割が生活、県外就業率全国1位・57~30%・女性就業率47位)の全国的特異な県民性と周知した上で、智恵を発揮しなければならない。
昨年外国人観光客2,100万人(県内165万人)・2015年1,900万人(103.3万人)超えの現状を踏まえ、私が提唱するのは「日本のほんまもんと振り返れば未来」である。地域創生は産業再生の経済効果を生まなければ無理であろうし、その一躍を担う観光も着地型観光でなければ経済効果は大変薄いものでしかないし、何も生まない。繰り返しになるが、地域の隅々まで知る事、学ぶことである。そしてほんまもん商品とおもてなしの心を提供する。
とは言っても21世紀の今、日本人の生活文化が完全に変質し、信仰・感謝する心の価値観が変化した。戦後生れのサラリーマンでは、育んだできた伝統文化を伝承していないのであって、昭和一桁御年八十三以上の老人の生活智恵袋を数年の内に聞き取ることである。外部のコンサルタント青臭知識任せでは、地域産業の再生おろか智恵すら浮かばない。案ずれば、世はボランティアの似非ものプライドばかりが目立つ神社仏閣ガイドブックおおむ返し「大佛商法」では無く、基礎学問に立脚した史跡・名勝・天然記念物・景観・伝建・民俗文化財等々悠久の歴史を語り、文化資産を最大限利用した仕掛けを作ることである。
観光資産となる仕掛けは、生涯学習と連携した拠点となるイベント(催し)を打ち続ける事が必要である。全国で連携図書館作りCCC(カルチャー・コンビニエンス・クラブ)もアドバイザーを受けた「図書館にぎわい創出計画」も進んでいる(神奈川県海老名市・岡山県高梁市・佐賀県武雄市など)。
拠点とは、地域住民が安心して・楽しく・笑顔あふれ住みよく・便利でほっこりするまちで暮らせ、集う処であり、橿原市の魅力ある図書館・科学館・昆虫館・藤原京資料室・歴史に憩う橿原市博物館・今井まちなみ交流センター華甍・今井町夢ら咲長屋・八木札の辻交流館・かしはらナビプラザ(橿原市観光交流センター)、まほろばキッチン・県立橿原考古学研究所附属博物館・奈文研藤原宮跡資料室・県立万葉文化館等活用を積極的に進める事である。
また、連携で言うならば全国で成功事例が多くある様に、協議会では無く、観光を中心として商工所・農産物直売所・観光まちづくり施設運営等々も俯瞰した、“よそもの・かくしんもの・ほんまもの”のまちづくり組織〔会社・財団・NPO〕が必要である。運営・経営は、ボランティア化によらない智恵が必要で、提供する知識は「満足の代価」にならなければならない。
そこでおもてなしの一つの例を挙げれば、伝統食である食卓の和食がある。和食「WASHOKU:日本人の伝統的な食文化」は世界無形文化遺産登録(2013.12.)されたが、特別の宮中料理・懐石料理・会席料理が指定されたのではなく、庶民の常(ツネ・アイ・褻)・時折(トッキョリ・晴)の食であり、地域風土歴史の上に厳選されてきたのである。その智恵は老人(後期高齢者)の智恵袋の中にまだあり、食文化をどう継承し伝える知恵と工夫がいると考える。
食は命の源。健康寿命の源。食べるは、人間の究極の欲求であり心の安らぎを豊にし、その背景は神人共食(食べ事の食=行事)にあり、オーガニック素材の豊な郷土料理の地域は豊な地域(国)であると言える。食に関する意識を高め健康な心と体を作ることは、生涯にわたって生き生きと暮らせることに繋がる。地場食材や料理・質の良い食品を守る事を考える時、食材を提供する生産者と消費者が今何をしなければ成らぬかが、今まさに問われていると言える。
これらの事が実践出来れば橿原市は、南大和のcore、観光拠点として魅力となる。今回は、総論と理念を述べたもので、宿場町八木や伝建今井や飛鳥藤原など些細な魅力事を語らなかった。なぜかと言えば御用利きの形式論では無く、観光は地域創生の「観光戦略」として観光の魅力条件(自然・気候・文化・食事・多様性)を追求しなければならぬ時と考えるからである。(以上)
*市分庁舎複合ホテルPFI事業は約97億円をかけ実現し、高さ45mの県内一のビルが2018年3月13日オープンした。ビルの愛称は、「ミグランス」。1~4階は市役所分庁舎で10階には展望施設があり、5階以上は「カンデオホテル奈良橿原(客室数139室)」で、㈱東急が管理する。
(初出典:橿原市の観光一班2015/10/23、改題・橿原市の観光の魅力について 2017/9/1 より)
【freelance鵤書林125 いっこう記】
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