B.おかず(副食):四季折々の「炊いたん・焼いたん・茹でたん・蒸したん」のおかずが作られた。共同池や川の恵み・野や里山の恵み・自家菜園での恵みである。他所よりの流通品は、行商や街村商店より購入の恵みもあった。出汁(だし)は、乾物文化の干椎茸・昆布・だしじゃこ(炒り子)・鰹節を削った削りかつおである。
アイのおかずは、つけもん(漬物)である。こうこ(大根、四斗樽に干大根2百本)は2月から5月いっぱい食され、白菜・蕪・茄子・胡瓜のどぶ漬けや奈良漬・らっきょ漬・梅干し・紅生姜もある。6月以降は茄子や胡瓜の野菜が育ち浅漬け・糠漬けが作れる。アイの昼飯・夕はんは以下のおかずが二・三品加わる。
炊いたんとは煮る事で、京のおばんざいと似た和食そのものである。幾つか特徴のあるものを述べるが、豚汁様のものと誤認されているものに、冬ののっぺがある。「濃餅」と記す様にドロ芋ベースに、大根・人参・蒟蒻・揚げに薄味の野菜の具沢山煮物である(奈良ではおん祭のごっつお)。
同様の物に干鱈(ひだら)と煮く夏のおひらがある。茄子・南京・椎茸・牛蒡・揚げなどで煮詰める。また、ドロ芋・蒟蒻・筍・人参・厚揚げ・高野・椎茸・牛蒡・白瓜・湯葉・干瓢のごった煮ともする。水菜を用いたさい煮はドロ芋(小芋)・大根・南京・白菜が入る。
特別な和えもんの七色おあ(和)えは茹でたドロ芋・隠元・人参・茄・芋茎・南京にミョウガを入れたもの。盆の頃に旬の七つの野菜を胡麻味噌で和えミョウガの香りで食欲をそそるのである。
その他色んな炊き合わせが、旬々で展開する。筍とワカメ、空菽とワカメ、豌豆とワカメ(ワカメは塩若布)、豌豆と生節、空菽とちしゃ、若ごんぼと揚げ、蕨(わらび)・薇(ぜんまい)と揚げの炊いたん、豌豆卵とじ、土筆(つくし)卵とじ、生節とふき、生節とバタ豌豆(えんど・きぬさや)、ふきと椎茸、ふきと筍、蛸とにど芋(春・秋二度収穫出来る馬鈴薯・一芋)炊き、山椒実昆布佃煮、山ぶきの佃煮、土筆の佃煮-(春)、干瓢と小芋、高野豆腐と椎茸、小芋炊いたん、ずいきと揚げ(芋茎:里芋の茎赤種・ドロ芋種とは違う、混同書物多し)、いも頭の味噌炊き、豆腐と揚げ、なすび(茄子)甘辛煮、茄子と鰊(にしん)煮つけ、南京と茄子煮、牛蒡の金平、烏賊(いか)の宝袋-(夏)、茄子と人参(八朔に食す)、菜と揚げ、揚げの野菜詰め煮、菜と揚げコロ(鯨)炊いたん、蒟蒻炊いたん、南京炊いたん、身欠鰊(みがきにしん、頭・内臓を欠いた干物)とドロ芋大根、茄と身欠鰊煮物、トンガラシ(紐唐辛子)味噌、茄子味噌-(秋)、切干大根と揚げ、つり干大根とドロ芋炊き、芋茎(ずいき)がらと揚げ、黒メ(ヒジキ)揚げ煮物、水菜と揚げ、水菜のいいがら(鯨・くじらのハリハリ)、焼キスと豆腐-(冬)、厚揚げ煮、麩と湯葉料理、鱧(はも)のスキ焼-(夏)・かしわのスキ焼-(秋)・牛肉のスキ焼(ネブカ・はるさめ・豆腐・蒟蒻、スキ焼に玉葱・白菜などは入れない)-(冬)、スキ鯖、鮪(まぐろ)のごろ、鯨コロとドロ芋大根、タニシ・泥鰌(どじょう)の卵わり-(夏)、鰊(にしん)昆布巻き、諸子(もろこ)佃煮・鮒(ふな)の昆布巻-(秋)、寒ブナ・もろこの煮つけ、干鱈(ひだら)煮、鰯(いわし)煮付け、干し鰊煮付け、鯖煮付け、赤えいの煮凝り・きらず(おから・卯の花・関西圏九州方言はきらす)-(冬)etc.。
焼いたんは主に魚(うお)であるが、列記すると焼き鯖(さば)、鰯(いわし)塩焼き、鰯丸干し・目刺し、秋刀魚(さんま)丸干し、鱧(はも)の照り焼き、鰻(うなぎ)照り焼き-(夏)、えその付け焼き・塩焼き-(秋)、味噌さわら(鰆)焼き、鰤(ぶり)の照り焼き-(冬)、焼き茄、青唐焼きetc.。
茹たん・蒸たんは、豌豆の粉ふき、菜のお浸し、法蓮草お浸し、芹(せり)とつり干しの和え物、筍ちしゃの木の芽和え、竹の子木の芽和え、隠元の味噌和え、白和え、しんこ・カマスゴ-(春)、分葱(わけぎ)のぬた、ちりめん・鱧(はも)の皮もみうり、茄でんがく、蛸造り、蛸酢(早苗饗)、鱧湯引き、豆腐、素麺-(夏)、蕪のあちゃら漬け、なます-(秋)、水菜辛子和え、ちしゃのはりはり、茶碗蒸し、菜種菜お浸し、菜種菜炒め、にゅうめん-(冬)etc.。
お付けの汁物(おつい)は、ワカメ汁、大根揚げの味噌汁、素麺味噌汁、鯉(こい)のおつゆ(鯉こく)、蜆・アサリ汁(味噌)、鮨には卵すまし汁、団子汁(豚汁ベースの汁で元々猪汁であろう)。
現代と違って生物の造りは流通しないが、堺方面から来る鮪・烏賊(いか)や蛸(たこ)の造(つく)り(大和・上方では刺身などとは言わない)が食されることもあった。多くは、新鮮な塩鯖を酢に漬けこんで作られる「きずし」や「鯉(こい)の洗(あら)い」である。
謂れの根拠は定かでないが、行事と食の言い伝えを幾つか記すと、お食初めの膳には、「カナガシラ・ホウボウ・カマス」を添えること。産後には鯉こくや鯉を食す。節分の夕はんは、干蕪と揚げの味噌汁と鰯(いわし)と煎り大豆を添え、豆は歳数+1食して歳を重ねること。初午(稲荷祭)には、赤飯・餅を搗き、おかずは水菜辛子とか菜種の胡麻和えを食す〔商家〕。半夏生には、苗が吸い付く様に蛸の造りや蛸のもみうりを食すこと。蛸は、げんのええ魚として結婚式や宮参り祝いには付きもんである。月見には、ドロ芋と千石豆(隠元)と揚げを供え、食す。国中の秋の祭りは、別名えそ祭りとも称する様に、祭日のごっつお魚は「照り焼き・煮つけのえそ」である。昼の一番短い冬至には力つけ、中風に成らん様に、ン(運)の付く(ナンキン・レンコン・キンカン)もんを食す。大和では「おから」の事を「きらず」とも言うことから、大ツゴモリ(晦日)に「お金が切れない様に、ええ正月迎えられる様に」とエイの肝できらずを作り食す。等々。
年に一度秋の収穫後に水を落とす、池ザラエ(掃除)で捕獲される、鮒(ふな)・諸子(もろこ)・川海老は、雑魚豆・海老豆とか昆布巻に加工され大層なごっつおに成る。稀に鰻や鯰(なまず)もいた。鯉(こい)は生きたまま生簀に移し、冬の鯉こくや春の洗いにしたそうな。これらは、正に食生活の知恵の結晶である。
正月は、「正月来たら何嬉し、雪みたいなママ(飯)食べて、割木みたいなトト(魚:棒(ぼう)鱈(だら))添えて、碁石みたいなアモ(餅)食べて、炬燵に入って寝んねしょ」の大和の俗謡にもある様に最大のトッキョリであった。
新年を祝う料理は「おせち」などと言うが、「せち」とは「せつ」の季節変わり目「節句」の意味で、年神様の手間のかかる最高の料理。奈良大和のお重・大鉢の節料理は、特別のごっつおで、正月にしか食さない物も多い。
煮しめは、北の海の数の子・乾物の棒鱈・昆布巻き、太平洋から来るごまめ(田作り)。近隣からの食材は、くわい・蓮根・牛蒡・蒟蒻・椎茸・高野豆腐・黒豆・こいもと揚げ。焼いたんは、魚屋から調達する睨鯛(にらみだい)・室鯵(むろあじ)、鰤(ぶり)の照り焼き・塩焼き、車海老(くるまえび)塩焼き。酢のもんは、蓮根、大根と人参で作るなます・柿なます、牛蒡ハリハリ・鯖のきずし。蒸したんでは、栗きんとん(薩摩芋)、蒲鉾・茶碗蒸しなど神に捧げるものだから最高の具材が用意された。
其々食材にも謂れが考え出され、祈りや願いを込めたゴロ合わせが伝承されてきた、記録しておこう。「目出たい」睨み鯛(たい)を三ケ日飾り、海老(えび)は「腰が曲るほど元気・長寿」の願いと長寿を示す「老」の字を当て、成長脱皮の姿に生命飛躍を投影した。照焼き・塩焼きにされる鰤(ぶり)は、ツバス~ハマチ~メジロと大きくなると名を変える出世魚の象徴で、出世を願望し裕福な暮らしを祈願する。ごまめは「田作り」と別称される様に田におく高肥干鰯の証し、棒(ぼう)鱈(だら)は正月だけにやって来る北海の珍魚である。数の子は鰊の「何万粉卵に子孫繁栄」を願い、春告魚として称えた。黒豆は「まめ(健康勤勉)」な暮らしを願い、邪悪を退ける豆の力を信じた。蓮根は「先を見通す」と言う縁起を担ぎ、くわいは「良い芽が出るよう」に願い、牛蒡は「神事に多様の縁起良い物」で食物繊維を多く含み栄養化多い作物。蒟蒻は「砂降ろし」と言い体の調子を整えるとされる。昆布巻きの昆布は「喜ぶ」にゴロを合わせ、海産物を取って形振り構わず働ける様に願う。蒲鉾は魔除けの赤に縁どられ、白は清浄のシンボルで、初日を連想させる。煮しめには高野豆腐と椎茸・人参・蒟蒻・小芋・揚げを炊き合わせ彩にキヌ鞘を加えた。
日本語の言葉には「言霊」の霊力があると日本人は信じてきたのだ。三方に「裏白の山草」を敷いたお鏡の餅も「望:もちに通じ」、稲の霊が宿るとされ「望月:満月」同様に丸をなし、二つ合わさる事によって「陰と陽」福徳の象徴だ。ダイダイ(橙)は「家の代々繁栄」を、ユズリハ(杠葉・譲り葉)は「子孫が続く」のを願い、昆布は「喜ぶ」に通じ、串柿は「夫婦仲睦まじく」と両端2・2で中は6つの柿を刺している。11日の下げて食す鏡開きは、「切るを忌み嫌い」割るのである。
初出典:田中一廣2015/3/14『奈良大和の食文化を考える』抜粋
【freelance鵤書林104 いっこう記】
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