なら 永野鹿鳴荘(ろくめいそう) 名所旧蹟9

 永野鹿鳴荘は、奈良国立博物館東の茶屋で今日のミュジアムショップ&カフェと言った処だが、永野太造(ながのたそう・大正11〔1922〕~平成12〔1990〕)の叔父夫婦の親が明治30年、館に指定されて創業した店である。博物館に向かい合った元来の入口には、明治の漢詩人佐藤六石(1864~1927・朝鮮李王家顧問・新潟日日新聞編集長) 揮毫の扁額が架かる。

 昭和初期には永野雄吉・鹿鳴荘刊として古美術関係の書籍を出版しているのが確認できる(内藤藤一郎〔1927・31〕『仏像通解上・中(後、上巻・特製巻)』、大和史學會・保井芳太郎編〔1928〕『南都七大寺古瓦紋様集』・『大和古瓦図録』、永野雄吉編〔1928〕『古塔選-古塔三十-』、京大建築會奈良研究所編〔1929〕『奈良県下國建見學提要』、朝鮮美術研究會編〔1932〕『朝鮮美術模様集成』全12冊、奈良帝室博物館編〔1942〕『佛像彫刻案内』)。 

 その茶屋を戦後、太造氏が3代目として継ぐ傍ら、独学で写真店とした。写真の腕前を認められ発足したばかりの奈良国立文化財研究所小林剛(1903~1969)らの片腕として文化財調査に同行して写真撮影に携わり、戦後の奈良を代表する写真家の一人となった。

 岩波書店(株)刊『奈良六大寺大観』『大和古寺大観』などの美術書に作品が掲載されている。観光ポスター「奈良大和路」シリーズの昭和31年制作「東大寺法華堂月光菩薩」世界観光ポスター展で最優秀賞受賞

 また鹿鳴荘刊として、コンパクト佛像ガイド本 岡直己〔1952〕『佛像彫刻-知識と鑑賞-』・小林剛・松本楢重〔1953〕『日本彫刻美術』(岡村印刷(株)制作ベストセラー・初版以来5版以上)、小林剛・森繿*〔1957〕『浄瑠璃寺』や自ら撮影した仏像写真を販売した。

 近年、ガラス乾板ネガ6,934枚・機材は子孫により青山茂(1924~2013)氏の縁で平成27年帝塚山大学に寄贈。茶屋は東に入口を開けて4代目姉弟が飲料水・アイスクリーム店として営業中(「永野太造」1982/9/18『日本経済新聞』)。

【freelance鵤書林54 いっこう記】

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