大和路の一本櫻 (名所旧蹟27)

 枝垂れや山櫻の一本櫻は実に健気で風格があり、周りの風景と溶け込んで美しいものだ。まずは二上・畑の〝専称寺早咲き枝垂れの尋源櫻〟、近年周辺に多くの紅枝垂れの増殖があり風情は無くなったとは言え室生・〝大野寺の早咲き小糸枝垂れ〟は素晴らしい。近年精が衰えたのが痛ましいが、〝奈良氷室神社の枝垂れ〟と三郷・勢野の〝遍照院の枝垂れ〟をあげておきたい。

 地域興しで人を集める樹齢300年の大宇陀・〝本郷の又兵衛櫻〟(近年は福島県三春にあやかって滝櫻と言う別名も付け加えたようだ)は要らぬ周りの増殖桃の木が風情を半減させたがまあ素晴らしい。樹齢では、上之郷・〝瀧蔵の権現櫻〟と晩生の室生・〝西光寺城之山櫻〟・榛原赤埴佛隆寺の山櫻と江戸彼岸櫻の自然交配〝千年モチヅキ櫻〟(県下最大最古の樹齢950年・樹高16m・幹周り7.7m)も一見の価値がある。

 その他東山中には、山添・〝大照寺址の枝垂れ櫻〟は何段にも枝が垂れ下がり実に素晴らしい櫻がある。福住の茅葺き〝西念寺にある紅枝垂れ櫻〟も良い。宇陀山中近辺では、初瀬・〝白木の江戸彼岸櫻〟は高さ20m幹周り3.7m・樹齢300年。今井谷の〝満願寺八講櫻〟も赴きがある。〝多武峰の小つづみ櫻〟も樹齢600年の古木だ。下笠間の墓地にある〝美佛櫻〟も堂々としたものだ。室生・〝小原の極楽寺址の枝垂れ櫻〟・榛原自明の〝悟真寺禅寺枝垂れ櫻〟。吉野山中近辺では、西吉野山寺の〝光専寺枝垂れ〟は見ておきたい。吉野山には、竹林院の〝群芳園庭園の枝垂れ櫻〟と西行庵の〝幽玄の山櫻〟たちの風情も愛でたいものだ。一方近年の環境の激変で樹勢が衰えたものや一本櫻巨樹の枯死櫻があるのは痛ましい。昨年も上深川の墓地にあった山櫻巨樹(幹周り6.5m・高さ12m)が枯た。

 何れにしても東山から宇陀山中や吉野山中の新緑とコラボの櫻色は実に風情ある美しさである。雪月花に花鳥風月、気候に動植物までが四季を装って心を華やかにさせる。これを感じる日本人の感性も豊に感受性の高さが窺えるのである。

 思い出したが、焚き付けにした櫻の割木・柴は燃やすと柔らかい火炎と香りも良かったなぁ-。

【freelance鵤書林138 いっこう記】

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